「組織で動く」「組織的な活動」等々という言葉を、しばしば耳にしたり、口にしたりします。
しかし、それには、どうしたらよいのでしょうか。
多くの経営コンサルタントも、「組織で動く」をわかりやすく説明したり、この課題に取り組んでコンサルティングしたりするのに四苦八苦していらっしゃるのではないでしょうか。
企業の経営者・管理職も同様に、どの様に現場の実務に活かしたらよろしいのか、頭を悩ましていらっしゃるのではないでしょうか。
■ 1-30 【組織で動く】 個の財産を組織の財産に
「組織で動く」ということは、理念や定款を最上位の判断基準とし、それに基づいて方針を決定したり、計画を策定したりし、また、規定・内規等を定めたりします。これを「ものさし思考」と呼びます。
そのものさしをどの様に作るかによって、社員がバラバラにならず、全社一丸となって、組織的な動きをすることができるかどうかに大きく影響します。
そのひとつが、マニュアルです。
マニュアルにつきましては、賛否両論がありますが、マニュアルに対する認識の違いもありますし、その活用法に誤りがありますと、批判の対象となります。
適正なマニュアルと、その活用の基本が「温かい管理」です。
ここでは、マニュアルとは、「企業の日常活動を通じたノウハウの蓄積を形にしたもの」という考え方で、その基本的な考え方をここでご紹介します。
経営は、種々の経営資源を有機的に組み合わせることにより、生産性を上げることができます。
たとえば、人という経営資源は、それぞれが個性を持っていて、強みも弱みも異なります。
それを適切に組み合わせることにより、相互補完ができ、組織としての力を拡大することができます。
社員一人一人が持ちます知識や経験というのは、バラバラです。たとえ双子でありましても、一人として、同じものを持っていることはないといえます。
その一人一人の財産は、個々に見ますとバラバラですが、蓄積しますと、大きな塊となります。これが、「企業・組織の財産」なのです。ただし、単なる塊ですと、宝の持ち腐れで終わってしまいます。
この大きな財産を蓄積し、会員の皆が使えるように整理しますと、ノウハウ集となり、企業の財産は非常に大きなものとなります。
それを全員が使えるようにするには、必要なときに、ヒントとなる必要な情報を参照できる状態にすることです。それが、マニュアルでありましたり、内規や規則でありましたり、年度方針や、経営戦略などに繋がってゆくのです。
「個の財産を個に偏在させないで、全員の財産として共用できるようにする」ことが、組織で動く上で重要なことなのです。
■1-31 【組織で動く】 組織の財産「共用智」の源は「集合知」
オリンピックやプロのスポーツの世界で活躍する人の多くが、「基本を大切にしなさい」ということをいいます。
往年の名選手、王貞治氏は、ホームラン王として知られていますが、彼の宿舎の畳は、ボロボロになっていたという有名な逸話があります。
毎日、バットの素振りを繰り返した結果というのです。素振りという、基本を大切にしていることが、毎日の生活の中にも滲み出ているのですね。
経営管理も、コンサルティングも、やはり基本が大切です。
ここでご紹介しています「組織の財産」におきましても、基本となる用語の共通認識ができていませんと、ここでお話しますことを軽視して、「そんなこと、わかっている。いまさら学ぶべきことではない」と考える方が大半ではないでしょうか。
すでにご紹介しましたが、組織の財産をだれもが活用できるようにしたノウハウ集を「共用智」といっています。ここでは、共用智に関連しますと、類似語についてご紹介します。
たとえば、知るという意味の「知」という文字に類似した言葉はいろいろとあります。
「知」とは、「ある事項について知っていること」と広辞苑で説明されています。
この字とよく似た漢字に【智】という字があります。 「知る」という字の旧漢字体でもあります。この「智」は、仏教用語としてよく知られていますが、「物事を理解し、是非・善悪を弁別する心の作用」という意味でもあります。
仏教では、前者のやさしい漢字の「知とは、一般の分別・判断・認識の作用」であり、後者の複雑な漢字の「智とは、高次の宗教的叡知の意味に用いる」と説明されています。
知識という言葉も、現代仮名遣いでは、当用漢字にあります、やさしい字の「知識」という漢字を用います。
後者の旧漢字の持ちます「叡智」というニュアンスを重視しますと【智識】という旧字体は、洗練された「知識」のことを指しますので、ここでは、後者の旧漢字体の「智識」と表記します。旧漢字体の「智識」とは、「正しく教え導く作用を起こすもの」のことです。
智恵は、経験から導きだされた智識のことです。「智慧」とも書きます。
これらを集合したものが、【集合知】です。集合知は、さきほどご紹介したWikipediaのような知の集合体を指します。
集合知とは、「多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性である」と【Wikipedia】では定義づけされています。
あたかも、仏教や難しい哲学でも学んでいるような感覚をお持ちになった人も多いでしょうし、そこまで、厳密に理解しなければならないのかと反発される方もいらっしゃるでしょう。
言葉といいますのは、コミュニケーションの基本手段です。その部分を、おろそかにしたくないですね。
■1-32 【組織で動く】 個の財産をどのようにして組織の共用財産とするか
ICTの世界では「集合知」という言葉がしばしば使われます。これは、「多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性である」と【Wikipedia】では定義づけされています。
私は、企業や組織が、自社のために構築した集合知を、「共用智」と呼んでいます。一般的な、ICTの世界におけます集合知と、ここでいいます共用智には違いがあります。その違いを含めまして、「共用智」とは何かについてご紹介します。
すでに、関連用語につきましては、その意味合いをご説明いたしました。しかし、言葉だけでは理解しづらい面がありますので、簡単なチャートで追加説明をしたいと思います。
知識や情報というのは、目的に応じて最適に組み合わせますと、さらに質が高まります。これを、むつかしい漢字を用いた「智識」と定義しています。すなわち「知識+情報=智識」と表すことができます。
この「智識」という言葉の意味は「正しく教え導く作用を起こすもの」といえます。
【智識+経験】
この智識に、経験という味付けがなされると「智恵」になります。
智恵とは、すでにご紹介しましたように、経験から導きだされる智識のことです。
【智恵+集合】
その智恵を一カ所に集め、整理しますと「集合智」とか「集智」と呼ばれるものになります。
ここで、ちょっと視点を変えてみたいと思います。
皆様は、後期印象派のスーラという画家をご存知と思います。点描画という技法で知られています。
点だけですと、単なる点にしか過ぎませんが、それらが集まるにつれ、まとまった像が浮かび上がり、やがてまとまりのあります絵へと変身してきます。
【浮かび上がる智恵】
私たちの智識を集めていきますと、あたかもスーラの絵のごとく、次第に浮かび上がってきて、やがて自分の会社だけの智恵が出現します。
もともとは単なる知識や情報に過ぎなかったものが、智恵という点の集まりから浮かび上がってきたもの、これが、自分の会社のノウハウであり、特質なのです。それを会社の財産として活用すべきなのです。
すなわち智恵を集めて、それを整理し、「集智」へと形を変えさせ、その集智に「自社独自の経験智」という味付けをします。
それにより自社独自の集智に昇華できましたら、関係者全てが使えるように、その活用法を全メンバーに共通理解させます。その結果、「集智」が、「共用智」に生まれ変わることができるのです。
ここで生まれ変わりました「共用智」を、さらに関係者の皆さんが、日常業務にも活かせる形に加工し、活用しやすくします。
全関係者の実力は、この活用により一層高められます。高められた実力で、共用智の蓄積をさらに進めますと、一段と高められた「共用智」へと成長させることができるのです。
このようにして、このサイクルを回転させることにより、単なる「点」として始まった「塵(ちり)」が山となるのです。すなわち、共用智を善循環させることにより、サイクルが発展スパイラルに変化し、企業の成長力は一層高まるのです。
「共用智」とは、どのようなものであるのか、ご理解をいただけましたでしょうか。
その共用智を、どの様に構築し、どの様に活用するのか、実務面での日常利用法につきましては、関連ビデオをご覧下さると幸いです。
■1-33 【組織で動く】 基本を励行できれば全社一丸の活動は実現できる
「組織で動く」ことができる企業作りの基本思想のひとつが、「ものさし思考」です。
考え方・思考の基準となるものを「ものさし」にたとえ、経営上の判断を行うときに、それが正しいのかどうかに使います。
ものさし思考の基本的な考え方は、意思決定を行うときに、その事項の上位概念と相違がないかどうか常に意識して判断します。これにより、上位概念から下位概念まで思想が統一されることになり、「共通目標」としてふさわしい形になります。
共通目標というのは、共通に認識されるものと思われがちですが、金太郎飴のような共通した認識ではなく、個々によるバラツキがあることが多いです。そのバラツキを最小限に抑えられるように、一人一人の認識を統一してゆきます。
企業では、「知識がある」ということと「実行できている」ということは往々にして一致していません。ましてや「実行できている」と「実効が上がっている」とでは大差があります。
頭で理解していても、実務に活かされていないことが多いですので、ビジネス管理上では、くどいくらいの繰り返しによる徹底が必要なのです。ですから、あえて「共通目標」の「共通認識」ということを強調しています。
たとえば、経営計画は、経営理念実現のための方策ですので、経営理念を実現するには、どのような方法があるのか、その方法をどの様に運用したら効果が上がるかを経営戦略といい、それを一定期間の目標とするのが中長期や年度の経営計画となります。
その年度計画を実現するために、各部門は、どの様な考え方で、どの様に経営計画を実現するのか、いわゆる戦術レベルの考え方を部門の年度計画として決定し、明示します。
各担当者は、部門の年度計画実現のために、自分の担当タスクの中で、何を、どの様に、いつまでに、どのレベルまで持ってゆくのか、いわゆる「戦技」のレベルの年間方針を明確にします。
経営理念から、経営計画、部門計画、個別計画とドリルダウンしていますので、全ての計画のベクトルが、同じ方向に向いているのです。
共通認識された目標が確立されますと、その目標の各階層における実行策を実施することにより、全階層において、ベクトルが統一された方向に向かって、一丸となった行動となります。これを「共通行動」と呼びます。
経営トップは、つねに経営理念実現という命題の中で、企業業績の推移を見たり、グローバル市場の中における自社の現状ポジションを見たりして行きます。
役員レベルは、経営理念実現のための経営計画を常に念頭におき、その進捗管理を通して、時には、トップに提言し、時には管理職を通じて、関連部門に指示や命令を出します。
管理職は、経営計画実現のために、経営理念を意識した日常の部下管理を行います。社員それぞれは、自分の成すべきタスクを、個別年度計画書をものさしとして、進捗管理をしながら、報連相を通じて、全社の経営計画実現に邁進します。
すなわち、全社員の行動も、トップから社員までが同じ目標に向かって、全社一丸の行動をするのです。
このような、当たり前と思えることですが、これが実施できている企業がどのくらいあるのでしょうか。私は、経営コンサルタントとして、この考え方をベースにコンサルティングをしてきました。「知っていても、業績や企業成長を通して社会貢献するという結果に結び付けられないのでは、企業活動をしているとはいえない」のです。
「共通目標」は英語で「Common Aims」、「共通認識」は「Common Acknowledgement」、「共通行動」は「Common Action」と表記します。この頭文字は、3つとも「CA」ですので、この省略語の複数形から「3CA's」と表記します。(英文法では、省略語の複数形には、アポストロフィを付けます)
■1-34 【組織で動く】 「蓄積は力なり」 組織の財産の蓄積
別項にて、「個の財産を、個に偏在させず、組織の財産とする」ということをご紹介しました。
社員一人一人が持っています、個人の経験や知識や情報は、一つ一つは、それほど大きくなくても、それが集合され、整理されますとノウハウ集としての、大きな情報データベースとなります。
新入社員の時には、西も東も解らない人が多いのですが、それぞれ個人の財産というのは、社員研修や、社員一人一人の日常業務をもとに培われてゆきます。それは、一人一人異なるもので、それを集合しますと大きな財産になるということは、すでにお話しましたし、どなたもご存知のことです。
ところが、必要性を頭でわかっていても、それを実践できている企業は意外と少ないのです。それゆえ、日常業務が、漫然とすすめられ、そのまま一日が終わり、一月、一年と過ぎていってしまうのです。
まずは、日常業務として、何が行われ、その結果、なにが問題だったのか、他の社員にも応用できるようなよいところはなかったのか、等々を、日常の報連相の中で、双方向コミュニケーションとして行われなければなりません。
形式的な、報告業務だけに終わらず、報告者と、それを受ける管理職が、双方向コミュニケーションを行い、重要ポイントを確認し、それらが標準化された形式で記録として残され、蓄積されてゆかなければなりません。
これを全社員が参照し、各自が自分のビジネス活動に利用できるようにしたものを「共用智」といいます。
これがキチンとできることが経営管理です。
ここで蓄積された組織の財産を、経営管理に活かし、次の経営戦略立案に活かすことにより、その企業としての財産が、商品・サービスとして、価値創造をし、組織の財産が再生産され続けて企業が成長します。
蓄積された財産であります経営資源を活用しながら、社員は日常業務を繰り返してゆきますので、企業は、経営の成長スパイラルに乗ってゆくのです。
漫然と、日常業務が進められている企業では、それが日常のサイクルとして繰り返されるだけで、成長スパイラルになっていないのです。
あまりにも当たり前なことですので、その重要性が軽視され、漫然とした日常サイクルが、マイナスのスパイラルに陥っていることすら、気がつかないでいるのです。
日常活動に中に、その企業のノウハウや強味が潜んでいますが、それが記録として蓄積されず、その蓄積が、明日の企業経営に活かされていませんと、このマイナスのスパイラルに陥るのです。
ノウハウを蓄積することが、ノウハウをさらに成長させるという意識が、企業をプラスのスパイラルにするか、その逆かが決まります。
「継続は力なり」といいますが、漫然とした日常サイクルの繰り返しでは、他社と同じことをしているに過ぎず、他社との差異化(差別化)が図られません。すなわち、そこで成長がストップしてしまっているのです。
優良企業が成長してゆきますと、成長がストップしている会社は、相対的に地位が低下、すなわちマイナス成長のスパイラルに陥っているということなのです。現状維持というのは、相対地位が低下していることであって、横ばいをしているわけではないのです。
このような、あたり前のことは、読者はご存知でしょうが、それが実行できているかどうかが問題で、その企業の実力として表れてくるのです。
あたり前のことを、頭で理解しているだけでは、企業存続は危ういのです。あたり前のことを、あたり前にでき、そのあたり前を成長させていくことが、今、企業経営に求められていることです。
■1-35 【組織で動く】 「蓄積は力なり」 共用智拡充の実務
「継続は力なり」という名言があります。一方で、「三日坊主」という言葉がありますように、前者が名言になるということは、いかに「継続」することが難しいことかがわかります。
「企業30年説」ということが1980年代に言われましたが、創業してから30年を経過しますと、継続して生き残っている企業は激減するといいます。一方で、「あたり前のことが、あたり前にできる」企業というのは、何とか生き残り、その多くが、勝ち残っているということを、私達は経験的に知っています。
あたりまえ経営ができている企業というのは、自社のノウハウ蓄積ということがあたりまえになっているという事実にもなっているのです。このことから「蓄積は力なり」という言葉が生まれました。
それでは、どの様に蓄積をして行ったらよいのか、営業部門を例にご紹介します。
営業パーソンというのは、顧客への営業活動を繰り返している中で、次第に営業ノウハウというのが身についてゆきます。しかし、それでは一人の営業パーソンのノウハウは、その個人にしか蓄積されません。
企業という組織は、社員一人一人がバラバラに活動しているより、全社一丸となって、共通目標を共通認識して、同じベクトル方向に向かって共通行動をすることによって、その効果を高めることができるのです。
この活動の基本は、双方向コミュニケーションをベースにしたPDCAであり、「温かい管理」であるのです。(「温かい管理」は、当該する事項をご参照くださると幸いです)
温かい管理におけます双方向コミュニケーションというのは、計画書やその上位概念であります経営理念や経営計画と、営業日報などの報告書をもとに、文書と口頭で行われます。
また、これらは、基幹業務システムのデータとリンクさせますと、一人当たりの利益や費用の使い方分析、商品・サービス毎の利益率や原価率の変化、経営資源の効率性などときめ細かな分析につながり、社員一人一人の気づきの材料ともなり、管理職の部下指導・育成の情報源としても活用できます。
その時に重要なのが、報告者も、それを受ける側も五感を用いて、ノウハウを見極め、蓄積してゆくことです。そして、それらが一部の人にのみ共有されるだけではなく、だれもが閲覧し、自分の活動に活用できるような仕組みが必要となります。これを「温かい管理システム」とか、営業部門では「営業設備」といいます。
形としましては、マニュアルとか、規定とかいわれる成果物として作成し、それをもとに蓄積して、それを改良しながら、自社のノウハウを成長させてゆくのです。そして、だれもがそれを活用できる、すなわち、単なる「共有」ではなく、「共用」できるようにして、だれもが活用できるようにします。
個人の経験やノウハウが、組織の財産として「共用」され、その財産を、ふたたび個人が活用することにより、一人一人が成長します。成長した個人の財産を、組織の財産に組み込むことにより、この循環が、スパイラルアップに繋がるのです。
ここで、蓄積されました共用財産の成長が、企業成長として「見える化」できるのです。
【 注 】
一見、「あたりまえ経営」は、簡単そうですが、自己流では、なかなか成果に結びつきません。
温かい管理による「あたりまえ経営」ができる組織への体質改善につきましてのコンサルティング依頼をお引き受けいたしますので、ご相談ください。
■1-36 【組織で動く】 「蓄積は力なり」 マニュアルの作り方
マニュアルとは、「自社のノウハウを整理し、集大成した文書」です。従いまして、企業が成長するにつれて、マニュアルも成長してゆきます。
一般的には、「わが社としては、最低限、ここまではできて欲しいということを伝える”ものさし”」ですので、それを100%実行し、実効を挙げられるようにする努力目標でもあります。
しかし、「マニュアル人間になるな」という声を聞いた方も多いでしょう。
「マニュアル通りやればよいのであって、それよりベターな方法があっても余計なことはせず、マニュアルに従って作業さえしていればそれでよいのだ」、「別のよい方法があって、それを試して失敗するよりは、マニュアル通りにやる方が出世できる」というような、お役所的な、型にはまった人間作りを推進してしまうようなマニュアルの使い方が蔓延してしまうことは問題です。これでは、従業員も企業も成長しません。
「マニュアル人間になるな」というのは、マニュアルの効果やその価値を否定することではありません。「この様な手順で作業を進めれば、最低限要求される成果物を得ることができる」というのが、マニュアル本来の目的です。
従いまして、上述とは矛盾するようですが、能力のある人であっても、マニュアル通り作業をするのが「原則」です。
しかし、「マニュアルの成長が企業の成長の”ものさし”」ですので、マニュアル通りしていては、企業は成長しません。能力ある人やマニュアルの欠点や改善点に気がついた人は、マニュアルの改訂提案を積極的に行うべきです。
ある企業では、マニュアル改定提案の効果予測をして、それに応じた報奨制度が適用されることにより、社員のモチベーションを高めています。
一口に、「マニュアル」といいましても、いくつかの種類があります。
一般的なマニュアルというのは、ここでは「作業手順書」といわれます。マニュアルのオーソドックスな使われ方で、初心者でもわかるように作業を進める手順を詳説したものです。
「作業手順書」が、「作業従事者は、最低限度これだけは実行してください」ということを主目的としているのに対して、作業を進めるために、ヒントとなるような事項を中心に記述されているのが「作業者支援書」です。
その代表的なものが「営業マニュアル」です。
営業マニュアルは、営業活動の結果を基にして記述されます日報などをベースに蓄積したものです。過去の営業活動のノウハウがそこに蓄積されていますので、何か、判断に困ったり、新たな企画を立てたりするときのヒントを得ることができます。
ここでご紹介しています「温かい管理」を推進しますのに、基本となることの一つが、双方向コミュニケーションです。双方向コミュニケーションを行うときには、管理職は、報告者とは別の視点で、アドバイスをしたり、指示・命令を出したりします。
その時に、参考にするのが「管理職支援書」、すなわち管理職のためのマニュアルなのです。上述の「作業者支援書」と重複する部分が多いですので、そちらと兼用することもあります。
本来は、作業者支援書や管理職支援書に記述したいのですが、自社の現状の実力から、その実施はまだ先のことと思われる事項を、いまから蓄積して行くことを目的としているのが「わが社の目指す”目標書”」というマニュアルです。
新規事業を検討したり、次の経営戦略を立案したりするようなときのヒントとなることです。これらの多くは、日常の業務を通じて、報告書などに記述されていることからの転記でマニュアルの充実が図られます。
「マニュアルを適切に活用できる企業は成長する」という言葉を覚えておいていただけますと幸いです。
■1-37 【組織で動く】 「組織で動く」ということの本質
「組織で動く」ことの必要性は広く理解されていると思いますが、それを言葉として説明しようとしますと、意外と難しいですね。
ここでは、日本経営士協会の説明がわかりやすいですので、ご紹介いたします。
共通目標・共通認識・共通行動
企業は、社員一人一人が、経営計画や方針など、目標とすべき事項が明確で、その目標に向かって、全社員が一丸となって行動していくことが必要です。それを「組織で動く」という言葉で表現しています。
組織で動く前提として、経営理念を始めとした、判断や行動の基礎となる「ものさし」が必要です。その「ものさし」が、全社員の「共通目標」となっていなければならないことは、別項でお話しているとおりです。
全社員が共通目標として認識しても、その認識が社員それぞれがバラバラであってはなりません。共通目標の内容や根底に流れています精神に対する理解にバラツキがあってはなりません。これを「共通認識」といいます。
共通目標を、共通認識して、それに基づく判断や行動のベクトルがあっていなければなりません。これを「共通行動」といいます。また、その英語表記の頭文字をとりまして「3CA's」と略記しています。
PDCA
共通目標・共通認識・共通行動を持続的に行う方策がPDCAです。PDCAは、PDCAの各段階において、3CA’sやPDCAの各段階の中でもPDCAがなされます。
また、それぞれの段階において、関係者間での調整や、それにより発生するスケジュール調整を行います。
この両者の考えをもとに、トップは、役員会等の会議体の決定や社員の声に耳を貸し、基本方針や計画を策定し、トップから命を受けた役員等はそれに基づく実行計画を、「共通目標・共通認識・共通行動」に基づき策定し、トップの承認を受けて実行に移します。実効においては、PDCAを基本にし、報連相等コミュニケーションがスムーズに運ぶようにします。
日本で最初に設立されました経営コンサルタント団体であります日本経営士協会では、「組織で動く」ということにつきまして、次のように述べています。
トップの基本方針に基づき、理事・役員・管理職等は、その方針の実現のための具体策を策定し、当事者意識を強く持って、基本方針を実現する
基本方針・計画を共通認識し、共通理解の下、ベクトルを揃えて一丸となって活動(共通行動)する
ものさし思考・複々線思考を持ち、複合型PDCAを正しく理解し、それを実践しながらスパイラルアップしてゆく
互いに相手を尊重し、一人一人の個人の立場や考え方、経験に固執せず、柔軟性ある発想ができる品格ある人で構成する
事実・見聞情報・個別意見等を区別し、複数の情報源でウラを取り、論理思考を用いて、部分最適ではなく、全体最適を目指す正確性の高い判断ができる
共業・共用・共育を通し、多くの知識・情報に基づく経験から生じる知恵を蓄積し、個の財産を組織の財産として活用する
目的に応じた最適手段(設備・ツール)で定着させ、成長させる
上記のように具体的に説明していますが、これをもとに、日本経営士協会では「組織で動く」を次のように定義づけしています。
全体最適を目したトップの基本方針を
温かい管理による、正しいリーダーシップの下で
最適手段で3CA's+PDCAのスパイラルアップにより
蓄積した知恵を共業・共用・共育に活かして成長する
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