“真”のプロが実践している発想法と行動術
「あたりまえ経営のきょうか書」
「経営とは何か」ということを、このシリーズ1-01でご紹介しました。では、その経営を、経営の定義のそって実施して行くには、どのようにしたらよろしいのでしょうか。
「あたりまえ経営のすすめ」という観点から、その答は、「【心 de 経営】である」とお答えしたいと思います。
では、【心 de 経営】とは何でしょうか。なぜ、「de」というアルファベットが含まれているのでしょうか。
1-20 【心 de 経営】 温かい管理の源泉は Ab11
「管理とは、温かいモノ」という言葉が、私の口癖です。その根底に流れていますのが「心で経営」です。
では、なぜ「で」がアルファベット表記されているのでしょうか?
ご存知のとおり、「de」は、フランス語の前置詞で、発音としましては「ドゥ」に近い発音ですが、ここではローマ字式に「で」と読んでいます。
このdeは、英語の「オブ」にあたる意味あいですので、「of 経営」とみなして、それを英訳的に、うしろにあります「経営」を先に表記し、前置詞の前にある「心」に戻って全体を捉えます。すなわち経営を行う本質という意味で用いています。
一方で、deを、ローマ字式に読みますと、ひらがなの「で」ですので、「で」として表記します。「心で経営」すなわち、「心を用いて、あるいは、心ある経営」、「温かい、思いやりのある経営」ということで、人間性を重視した経営のあり方を示しています。
私達「人間」は、心を持つ生き物です。「感情を持つ」ともいわれます。
頭では理解できても、気持ちのほうが納得できていないという状況に直面することはしばしばあります。
心ある言葉に勇気づけられて、元気に活動できるようになることもあります。
言葉の持つ力や意味合いを重視し、相手は人間であることを忘れないで経営できる企業づくりを目指したいという思いで、私は、経営コンサルタントになって以来、心を大切にしたいという思いでやってきました。
1-21 【心 de 経営】 人間性重視の経営管理 Ab15
私は、自分自身が経営者という立場でも、経営コンサルタントという仕事を通しても、その根幹には【心 de 経営】でありますことは、当シリーズでもすでにお届けしています通りです。
企業におきまして、社員一人ひとりは人間です。
その人間性を無視することはできません。個性を尊重しながら、自己管理を重視した「温かい管理」で経営管理は行われなければならないと考えています。
管理会計を導入したり、コンサルタントに依頼をしたりしようとしますと、多くの企業で、「締め付けの管理」がなされるのではないかと、社員の間から懸念の声が上がります。
【心 de 経営】は、自社が持つ経営資源の一環としての「共有財産」を利用して、社員一人一人が自分の仕事をしやすくしたり、経営管理データを見ることにより、気づきを覚えたりすることに繋がります。
【心 de 経営】は、指示命令や教育により学ぶことではなく、一人一人が人間性の大切さに気づきをもって感じ、経営管理や日常が、人間性重視で行われることを期待した考え方、思想なのです。
【心 de 経営】の精神は、「人間性重視」に通じます。否、人間性重視に根源がおかれているのです。
一人の人間には限界があります。すなわち日常の経営管理業務は、他の人の協力なしにはスムーズに進みませんし、効率も上がりません。
協力して下さる方の人間性を無視したやり方では、その方達も嫌になり、長続きもしないでしょうし、効率・効果も上がりません。
感謝の気持ちがありますと、双方の理解や信頼関係も深まり、業務がスムーズに進むようになります。
戦国武将最強といわれた武田信玄の名言に「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」というのがあり、人材の重要性を的確に示しているといえます。
城づくりの名士の一人といわれる信玄に、このように言わせるところに敬服させられます。
いかに城を強固にしても、人心が離れてしまえば、一揆が起こったりして、国を治めることは困難であるということでしょう。
信玄といえば、父親を追放して家督を継いだり、実子に謀反の疑いを掛けて切腹させたりと、非情の人という印象が強いだけに、この言葉のインパクトは大きいといえます。
武士や領民を治めるには、「情けは、人のためならず」といえるのでしょう。
一方で、漱石の「草枕」の冒頭に「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される」とありますように「情」のさじ加減は難しいです。
ロジカル・シンキングなど論理思考が「知」であれば、管理会計の「温かい管理」は「情」に通じます。
「経営はバランスである」という名言がありますとおり、人間性重視といいましても「知と情の使い方とバランス」を測らなければ性向は困難でしょう。
1-22 【心 de 経営】 経営環境の読み方とその対処戦略
「企業の経営環境は、日進月歩で、時々刻々と変化して行く」といわれます。しかし、光速ネットワークの時代におきましては、「分進秒歩」の時代と言っても過言ではありません。
1980年代に入りますと、マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツは、さかんに「スピード経営の時代」ということを処々で、繰り返し話していました。
ところが、日本企業は、旧態依然とした稟議による意思決定がまだまだ横行していました。その結果、「日はまた昇る」と、日本の高度経済成長はめざましいものがありましたが、そこに陰りが出始めますと、グローバル経営環境におけます日本の影は急速に薄くなってしまいました。
グローバル経営環境の変化や、電子技術などの急速な進歩など、外的な変化に追随できないばかりではなく、少子高齢化、労働人口の急激な減少、顧客ニーズの変化など、内的な経営環境の変化に、日本企業の経営管理が追いついて行けなくなってしまったのです。
このような、経営環境が劇的に変化する時代には、それに追随できる経営の仕組みだけではなく、日本という国の経済運営のあり方を、対応できように変化させていかなければなりません。換言しますと、過去の延長線上での思考法や経営のやり方では、ますます日本の相対的な地位は下落するばかりです。
後者の問題を解決するためには、一強弱小乱立といわれる政治体制からの脱却が求められるのです。それには、国民が、現在の政党に対する見方を変えられるような、野党のコペルニクス的思考転換が必要なのです。
残念ながら、経営コンサルタントという立場からは、これらの国政のあり方や体質を変えて行くには微力的すぎますし、その任に適している職業とも言えませんので、国政につきましては、この程度に抑えておきます。
では、企業は、どの様に、新たな経営環境に取り組むべきなのでしょうか。
まずは、臨機応変な、フレキシブルな思考に切り替え、ビル・ゲイツの言葉を借りて「スピード経営」について、重考(繰り返し思考する)していくべきではないでしょうか。それができな企業は、たとえ老舗企業でありましても、大企業でありましても、勝ち残りはおろか、生き残りすらできないでしょう。
日本企業は、量的スケール・メリットを追う時代からの脱却を図ってきましたが、まだまだ付加価値経営の本質に迫るまでには至っていません。その根底には、経営思考と管理技法が、それに充分に対応できるまでに熟成されていないことにあります。
とりわけ、中堅・中小企業におきましては、【心 de 経営】、「温かい管理」を核に、管理会計の活用を、根本からやり直してみることです。それには、論理的思考ができる社員に良質化してゆかなければなりません。
幸い、日本には、ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングという、論理的思考を養成できる技術があります。しかし、管理会計と同様に、論理的思考力の養成も中途半端な状態であるがために、努力の割りには、成果に結びついていないのです。
大きな変革は、斬新な発想がなければできないのではなく、地道な努力の積み重ねの上に、大きな変革への道筋ができるのです。すなわち基礎体力強化という切り口から、善循環(好循環)というスパイラルに乗ることができれば、企業は、生き残りどころか、勝ち残りも可能なのです。
自分達の力だけではなく、外部ブレインの活用により、新しい経営に踏み出すべきであり、それができない企業は、成長しないばかりか、淘汰の危機にまで立たされてしまうでしょう。
1-23 【心 de 経営】 謙虚な姿勢で、原点に戻って経営の本質を知る
経営者だけではなく、ビジネスパーソンが「経営とは何か」ですとか「管理とは何か」というようなことについて考えてみたことがあるでしょうか。
実は、これを突き詰めていったところに、経営の本質という者を掴むことができると確信していますが、それをしないで、私達は、経営や管理のあり方を論じているのではないでしょう。本質を抜きにしての判断では、その判断の適正度合いを測る尺度、スパイラルアップのものさしを持っていないことになります。
その上で、経営者というのは、自分の会社をどのような視点で運営して行ったら良いのかの適切な判断ができるのではないでしょうか。
企業経営という観点で、経営者の持つべき視点について考えてみましょう。
まず経営者にとって、企業経営上、重要なこととはなんでしょうか。いろいろと思い浮かぶと思いますが、その中で何が最も大切なこと、重要なこととは何かを考えてみましょう。
経営者にとって、最も大切なこととは、ずばり、「経営者が、経営者になること」、「真の経営者になること」ではないでしょうか。
この様な答えに、皆様は、唖然としたといいますか、あたり前のことではないかと、お怒りになられたかもしれません。
それでは、その「経営者」とは、どの様な人のことを指すのでしょうか。
禅問答のようですが、このようにして思考して行くことを「重考」、すなわち「重ねて考える」といいます。重考をして行きますと、いろいろなアイディアが出て来るだけではなく、取り組む視点の角度が増えてきて、次第に思考法が醸成されてきます。
「経営者とは」という命題に戻りましょう。
「経営者とは、経営をする人」のことです。
またまた、その答は、当たり前な答ですが、けっして、皆様を莫迦にしているわけではありませんので、ご容赦ください。
それでは、経営者の役割りである「経営」とは、なんでしょうか。
別項でご紹介しています「管理とは何か」ということと同様に、あまりにも当たり前すぎて、何と回答して良いのか、迷われるのではないでしょうか。
経営とは何か、と問われましても、すんなりと、回答できなくても気になさらないでください。
私自身が、経営コンサルタントとして駆け出しの頃、私のクライアントの社長さんが、自問するように、「先生、経営って、いったい、なんなのでしょうね」とぽつりとおっしゃいました。
恥ずかしいことに、私自身、即座には回答できませんでした。
と、言いますより、経営とは何か、ということについて、経営コンサルタントでありながら、考えたこともなかったのです。
1-24 【心 de 経営】 「経営とは何か」の本質を捉える
企業経営というのは、社内だけではなく、社外からの経営資源をも活用して、付加価値を付けた商品・サービスとして、市場に出して、社会貢献することです。
「経営とは何か」について、さらに詳しく見て行きましょう。
企業経営は、経営環境の変化に対して、臨機応変に対応して行くことが必要です。これは経営者にとって重要な役割の一つです。
企業内だけではなく、社外からも調達した経営資源を、組織的な管理のともに、その経営資源を計画的に用いて企業経営を効率的に行ってゆきます。
ヒト・モノ・カネなどを経営資源ということは、ご存知の通りです。経営とは、それらの経営資源を、単独に用いるのではなく、関連付けて、最適に組み合わせることにより、シナジー効果を醸し出すことがひつようです。
経営資源を効率的に、効果的に活用することにより、より高い生産性を追求します。
温かい管理により、生産性を上げ、顧客が必要とする新しい付加価値を創り出してゆくのです。
企業は、ゴーイングコンサーンでなければなりません。永続的に存続し、市場で獲得した適正利潤を持って、次の活動であります、再生産に繋げます。これらを通して産み出されました適正利潤を、あらたな経営資源として算入させます。
この様な企業にしたいという、創業者精神や経営理念として、自らが掲げている考えを、実行し、実現しようとする活動が、経営の基本です。
それだけに留まらず、企業の経営循環を永続させて、経営理念や創業者の夢の実現をはかり、その活動を通じて社会に貢献することが求められています。これら、一連の活動が有機的に連携されて営まれることが「経営」といえます。
「経営とは何か」というようなテーマは、大学の先生に任せておくだけではなく、それを実務に活かしていくための、切り口のひとつでもあり、経営の原点でもあるといえます。
1-25 【心 de 経営】 経営は頭でするのではなく心でする
多くの経営者・管理職は、経営管理のために知識吸収に時間やエネルギーを投じています。経営者・管理職にとって、知識は、部下のそれを上回っていることが望まれます。
しかし、部下達は、日夜、その業務を中心に飯を食ってきているわけで、そこで蓄積されたノウハウや技を持っています。たとえ経営者・管理職とはいえ、相手と勝負をしても敵(かな)わないことがたたありますことを自覚すべきです。
ですから、部下を相手に話をする時に、「現場における皆さんの知識や経験、それに培われたノウハウには、私は太刀打ちできません。一方で、私は、経営や管理という視点で、いろいろな業界の人や、いろいろな問題と直面してきました。皆さんの知識や経験・ノウハウと、私のそれとを合算したら、必ずよい方向に向かっていくと思いませんか」という主旨のことを投げかけます。
それまで「どうせ、上の者は、われわれ現場の者の真の姿をわかるはずはない」と、経営者・管理職に対して抱いていた警戒心が多少ですが和らいでくるでしょう。
知識に頼りすぎますと、学んできたことと異なる状況に直面したときに、知識を優先して判断してしまい、現場と乖離した見方となってしまいます。現場と乖離しても、それが正しい方向であればよいのですが、正しいかどうかはわかりません。
経営は、百社百様のやり方があります。
知識に基づいているということは、教科書としては間違えていないかもしれませんが、現況に即した対応ではないかもしれません。知識偏重ですと、教科書がものさしとなってしまい、現場での経験を加味したものさしとは異なります。
教科書に書かれた状況と、眼前の企業の状況が完全にマッチしていれば教科書通り実行すればよいでしょう。
しかし、大半の企業で直面することは、教科書とは異なります。その場合に、教科書の知識に固執しすぎますと、教科書にないことを受け入れがたくなってしまい、教科書に即した固定的、硬直的な判断となりかねません。
教科書の知識にそぐわない経験を受け入れにくく、教科書の内容を応用しようというフレキシビリティに欠けた判断をしがちです。
それに対して、「心で問題解決をする」ということは、知識に、経験に基づいた知恵を付加し、現状を考慮に入れ、業務をするのは人間であることを忘れない経営管理をいいます。
教科書通り行かないのがあたり前であるという開き直りができ、与えられた経営資源に知恵を加味して、なんとか解決し、この会社をより良くしていこうという情熱から、火事場の莫迦力のような智恵と工夫で難局を乗り越えることができます。
すなわち、経験に頼りすぎないで、新しいアイディアと、教科書や実務から学んだ知識とを融合させて、解決の努力をします。すなわち、フレキシビリティを持った対応ができ、それらの経験が、明日への成長に繋がります。その結果、これまでに直面したことのない新ケースにいこましても応用力を発揮して、対処できます。
経営者・管理職の業務は、経営現場におけます真剣勝負です。教科書にありますような、知識だけをたよりに、経営や企業が抱えます問題・課題を解決できるほど甘くはありません。
全社一丸となって、心の通った経営管理が求められているのです。
1-26 【心 de 経営】 自社の現状を自己認識する
別項でも触れていますが、自社の現況というのは、経営者・管理職なら、だれもが自分の会社なので良く知っていると思いがちです。
大半の経営者・管理職が、良く知っていると思い込みがちで、「良く知っているつもり」であることに気がついていません。
このような、「つもり症候群」に陥らないためには、管理会計の導入が不可欠ですが、それは、管理会計の項を参考にしてください。
ここでは、自社を知るということの一端を、営業部門にフォーカスしてご紹介します。詳細は、やはり当該項目をご参照ください。
経営数値の基本を見るときには、売上高や利益高などの数値を見ることが基本中の基本です。
たとえば、今月の売上高は1億円であったとします。しかし、このデータだけでは、それが良いのか悪いのか、よくわかりません。その判断となる基準、すなわち「ものさし」と比べますと、その判断をすることができます。
たとえば、先月は9千万円だったとしますと、今月は、先月より1千万円売上が多いことが解ります。しかし、それで喜んで良いのでしょうか。
先々月は、1億5千万円であったとしますと、今月の1億円は多いとはいえません。
では、先々月の1億5千万円は、売上高が高かったといえるのでしょうか?
もし、先々月の売上計画が、1億6千万円であったとしますと、計画比に対して100%に達していません。
このように、絶対値だけで見るだけでは、経営の現状を正しく把握することにはならないのです。この場合には、売上計画値というものさしとの比較をすることにより、1億5千万円という先々月の売上高は、必ずしも喜べる数値ではないことがわかります。
一方で、先々月の営業利益が1千万円で、今月も1千万円だったとします。そうしますと、利益額は、双方とも1千万円ですが、利益率は、今月の方が高いといえます。
経営数値というのは、絶対額だけではなく、比率で見ることが大切です。すなわち、比率を計算できるものさしが必要で、ものさしがありますと、単に、絶対値のみの比較だけではなく、基準値に対する比率でも見ることができます。
他方、昨年の同月と比べてみますと、昨年は1億2千万円の売上で、営業利益が1,500万円であったとしますと、今年の営業成績は、必ずしも好調であるわけではないことがわかります。
経営数値は、時系列でも見なければならないのです。
さらに、今年度に入って、営業パーソンの人数が一人増加しているとしますと、一人当たりの売上高も利益率も低下していることがわかります。このように、「生産性」という観点からの経営数値の見方も必要です。
しかも、自社の生産性だけではなく、ライバル企業や業界データとの比較も不可欠です。
これらのデータや分析を行うのが管理会計ですが、管理会計を利用しますと、今後の数値の予測も可能となります。
過去の数値を見るだけでは、経営は不充分であるだけではなく、改革値との比較という現在進行形の数値も必要です。また、経営環境が今後どの様に変化をするのかなどを加味して、経営数値の予測もできなければ、企業経営は、安心して行うことができないのです。
中小企業といえども、何らかの形で管理会計を取り入れていると思います。そのレベルを次第に上げて行くことが、企業成長を実感できるものさしとなるのです。
これらの経営数値の中で、必要な部分は、管理職や一般職のレベルまでの開示を氏、報連相をするときの材料となることが、【心 de 経営】に通じることになるのです。