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線−孫悟空

経営トップ15訓 ”当たり前”が実行できる


 経営コンサルタント歴25年を経過した時点で、(特)日本経営士協会の理事長を拝命することになりました。その際に、自分自身を戒める意味で「理事長十戒」を作り、それを日々座右におきながら仕事をしてきました。

 私の経営に対する考え方の基本は「当たり前のことが当たり前にできる」「温かい管理ができる」等々です。そして、この40年間、その様な企業作りのお手伝いをしています。
 理事長歴も長くなり、そろそろ後任の選定やその人への傾斜引き継ぎを考える時期となった時に、何を残すかを考えました。

 この十戒に加筆をして、企業や組織のトップ・管理職の方々に向けて焼き直したものを「トップ15訓」としてまとめてみました。

 経営トップの皆さんだけではなく、日本経営士協会にも必要なことなので「社員」という言葉と共に「会員」という言葉も使っています。

 まだまだ内容的には不充分ですが、今後もこれをベースに推敲・改訂を重ねて参りますが、その第一版として茲にご披露させていただきます。トップの方々や管理職で日夜ご奮闘されている方に、少しでもご参考になれば幸いです。

 第 13 訓
ミスは許されないが、「羹に懲りてなますを吹く」ような
度を超した完璧主義には心する

■ ミスが怖くて冒険をしない

 ビジネスに於いて、ミスは大敵です。ちょっとしたミスが信用失墜に繋がることがあり、最悪のケースではそれが致命傷になって企業が倒産してしまうということもあります。

 かつて、乳業界のトップをいっていたY社は、いまや細々とそのブランドを維持しています。別会社で乳製品を出しています。私は、そこのヨーグルトが好きで、今でもその会社のヨーグルトを毎日のように食しています。しかし、一般的にはY社の存在を意識する人は少なくなってしまっています。

 ミスを恐れるあまりに、世の中には、慎重には慎重を期し、石橋をたたいても渡らない人もいます。一見、慎重で良いことのように思えますが、そのために失っていることもあります。いわゆる「機会損失」です。

 まだご記憶に新しいかと思いますが、利根川水系の水道水にホルムアルデヒドという、ガン発生を高めてしまう物質が含まれるという事件が起こりました。法的な問題とならず、結果的には事件にならないで、事故として処理されました。

 同じ問題が数年前にも発生したことがあります。その時の政府は「ある種の物質に浄水処理のための薬品を混ぜるとホルムアルデヒドが発生するが、その種の薬品の種類が多すぎるので規制をかけると影響が大きすぎるので規制をしない」と決定しました。

 ガンを発生するという命に関わる重大問題であることを、上記の理由で放置したことが、この度再び同じ問題を発生してしまったのです。問題が起こったら再発防止策を講じるというのが大原則であるはずが、慎重すぎて放置してしまったのです。

 これによる影響は、いろいろな面であったはずです。原因追及のための費用などは、もし再発防止策が打たれていればかからなかったかもしれません。心理的な影響も大きいです。水道水を飲料として使うのが怖くて、ペットボトル飲料水を購入するようになった家庭も多いのではないでしょうか。家計が苦しい中、大変です。

■ 石橋をたたいても渡らない

 私が所属している経営コンサルタント団体では、かつて会員名簿を発行していました。もし経営コンサルタントとしての専門分野の業務を引き受けざるをえないことが発生しても、それを参照することにより協会会員仲間の応援を得やすくなり、大変便利に使っていました。

 その様な便利なツールが廃止されたのは、協会トップがある経験をしたことによります。

 ある会員が、自分の居住地を伏せて仕事をしたいと考えていました。ところが、名簿に住所がでていると、それまで隠してきた努力が水泡に帰しかねません。そこで、その会員が協会に強く抗議をしたのです。経営コンサルタントという職業は「信用」に深く関わるので、この会員さんの行動は当然と言って良いでしょう。

 それ以来、協会では会員名簿を発行しないできました。そのために、上記のような仲間の会員を探すのに苦労をすることになりました。

 トップが、上記のようなことが再び起こらないようにするには「何もしないことがベスト」と考えて、「協会は資格付与をすれば、後は何もしなくても良い」ということを公言するようになりました。

 今日では、その様なことが起こらないように事前に会員に掲載許可を取り、OKが採れた会員を協会の公式サイト上で名簿として掲載するようになりました。その結果、協会サイトから会員に直接引き合いが来るようになり、メリットが出てきたのです。

 名簿を作っていない頃も、もしその様にして公開していたら引き合いがあり、会員のビジネスチャンス拡大に繋がった可能性があります。ところが、それをしなかったために会員が、受注機会を損失していたことになります。

 当時のトップは、「自分は慎重な人間である」「理事はもっと慎重であるべきだ」といい、当時の理事達に軽率な言動を慎むように戒めていました。「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」ということばがありますが、「羹に懲りてなますを吹いて、機会損失を起こす」ということを知っておくべきです。

■ 拙速巧遅

 また「拙速巧遅」という言葉があります。拙速で大きなミスや信用失墜をしてはなりませんが、巧遅は、その様な損失は少ないまでも、上記と同様に機会損失を起こすことが多いことにも注意を払わなければならないと考えます。

 仕事が丁寧なことは、素晴らしいことです。しかし時間がかかりすぎて、必要なときにその機会を逸することがあります。仕事が丁寧な人は、機会損失より、キチンとなすべきことをすることが重要だという考えなのでしょう。しかし、そのために仕事が次第にたまってしまっては、経営に影響を及ぼしかねません。

 私は、業務スケジュールをOutlookを使い、その上、時間がかかる業務についてはスケジュール管理ソフトを利用しています。緊急度と重点度を考慮に入れて仕事を進めます。ここで重要なことの一つが、スケジュールを俯瞰的に見ることができると、全体の進捗度や、緊急性を判断しやすくなります。

 自分は仕事をキチンとやっているのだと思い込んでいる人の中には、一所懸命にやっている”つもり”になっているだけかもしれません。仕事のやり方で、自分が他人に迷惑をかけていることに気がついていないことが多いのです。

 トップは、常に複数の業務を並行して進めなければなりません。複々線思考でかつ目前のことにも集中できるという矛盾するような状態で仕事を進めないと、時間がいくらあっても不足してしまいます。


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